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【* 『ふたり』後編 *】
* 『ふたり』後編 *

少女はすべての感覚を閉ざしていた。
淫靡で倒錯した性癖を育んできた彼女にとって、自分の性器を貫くものに違いはなかったからだ── それが道具であれ、誰の肉棒であれ、だ。
たとえば彼女のように快楽に奔放であればなおのこと、ときとしてアガペーとエロスは互いを内包するものでは決してなかったからだ。
そのことは彼女自身がいちばんよくわかっていた。だから最初のひと突きを受け、その穴でなく本能を快感で掻き回されそうになったとき、彼女は閉ざしたのだ。自らの心を──。


少女にとって、彼女が愛するものは常にひとりでなくてはならなかった。
自らが征服し、所有したものに対してたからかに旗をうち立てることで、逆に“支配するという束縛”によって彼女を征服できるのは、そのたったひとりの存在でなくてはならなかったのだ。
それは彼女の大切な奴隷であり、かつて彼女の兄だった存在で、今ではおもちゃとなった愛する家畜にほかならなかった。


聖愛と肉欲とを分離し、いつでもエロスを我がものにできる彼女にとって、それは主人としての誇りであり義務であり、また貞操でもあったのだ。
彼女は自分の奴隷を心から愛していた。奴隷が常に主人の所有物であるように、主人もまた常に奴隷のあるじでなくてはならない。
それが彼女たちの貞操であり、彼らの愛のかたちだから。


彼女はすでに藁人形だった。
もの言わぬダッチ・ワイフであり、呻き声ひとつあげない死体だ。
男たちは死姦しているのも同じだった。
いくら突いても突いても、少女はピクリとも動かず、ひそとも声を立てないのだから。
「くそ、なんだよコイツ……!」
少女のアナルを犯しながら男は声を荒げた。
「おい、こいつ……ヤバイんじゃねーか?」
前の割れ目を突いている男が答えた。
それを見ている他の男たちも、その異様な光景に圧倒され始めていた──。


少女はもうかれこれ半日は犯され続けていた。
錆の臭いが詰った薄暗い棺桶のような一室で、十人の壊れた男たちによって突かれ、犯され、掻き回されていた。
その小さな性器は何度も白濁を受けとめ、アナルは繰り返し射精され、桜色の唇は数えきれないほど咥えさせられ、汚濁を注ぎ込まれた。


それでも少女は感じなかったのだ。
何も言わず、何も見ていず、何ひとつ聞こえていなかった。


くたりとした筋肉はその役目を放棄し、膣は弛緩してただの穴になった。
肛門は感じるくびれではなくなり、本来の排泄器へと戻った。
敏感な平たい胸やその唇も、ただの肉に変わり果てていた。


「くそう、なんなんだよ……この!」
男は少女の中を突いてはいるが、自身の不安を内部から突かれていた。
「……なあ、おい。まずいんじゃないか」犯しているはずなのに神経を圧迫されているようだった。「まさか、死んでないよな」
それは恐怖となって男たちの顔に貼りついた。


遅かれ早かれそうなる運命だったのかもしれない。


兄はあまりにも勢力を広げ過ぎたのだ。
飼い犬の数が増せばそれだけ統率は困難になる。
そして犬どもは決まって諍いを起こし、反発し、飼い主の手に噛みつくのだ。
兄はそのことを肌で感じとっていたが、もはや自分の運命などどうでもいいと思っていた。
連中が自分のあとがまに座ろうとするならそうすればいい。
やりたいことはやり尽くした。
この先の人生に望みや夢なんてありはしないのだ。
と、そんな風に。
今更あがくほどの価値さえ、彼の未来にはなにひとつ存在しなかった。
そのため彼の嗅覚は衰え、危険を察知することができなかった。
だから彼にとって、たったひとつだけ大切なものが存在していることに気付かなかったのだ。


それと知ったときには手遅れだった。
彼に反旗をひるがえした連中は、彼ではなくその泣き所をついたのだ。
ゴロツキどもは周到に計画し、彼の妹がひとりになったところを狙って誘拐した。
「わかってるの!? こんなことして……お兄ちゃんが黙ってないわよ!」
少女の脅しは通用しなかった。
もとよりそれを承知でさらったのだ。
「はん。おめでたいガキだぜ……いつまでもお姫様きどりでいられると思ってやがる」
男たちは少女を殴った。
それはこれまで彼らがボスに対して溜めていた不満だった。
殴られ、蹴られ、少女はボロボロの布切れみたいに転がった。
それでも彼女は悲鳴をあげず、涙さえ見せなかった。


頬に痛みを感じるたびに兄を想った。
腹を蹴られるごとに愛しい奴隷を感じた。
体中にできたアザの数だけ大切なおもちゃのことを考えた。


わたしを殴っているのがあんたの手ならよかったのに……。
この手が……足が……笑い声が──ああ、さよなら……お兄ちゃん……。


「おいやべぇよ……こいつもう捨てたほうがいいって!」
ひとりが言った。
すでに少女は男たちの性欲から開放されていた。
床に転がる肉のかたまりだった。
ゴミの山にうち捨てられた人形みたいだった。
ぺたんとした小さな胸と幼い体のラインとが、余計にそんな印象を見る者に与えた。
性器といわず肛門といわず、男たちの射精したものがそこからドロドロとあふれ、全身がゴロツキどもの吐き出した白濁にまみれていた……。
じっと目をこらしていると、わずかに腹のあたりが上下しているのがわかり、かろうじて彼女が生きた人間であると知れた。
死にかけた少女は目を見開いて天井をみつめていた。瞼をとじることができなかったのだ。
あらゆる神経が麻痺し、交錯し、どの糸が右手につながっているのか、あるいは左足につながっているのか、まるでわからなかった。
開いているはずの視界には何も見えず、ただ彼女の頭のなかを、愛する奴隷への想いが支配していた。


「ちっ──とんだ茶番だったぜ、胸糞の悪いッ」
そう言って少女を蹴り上げようとした瞬間、男の視界が反転した。
蹴ろうとした足がどこかへ姿をくらましたからだ。あるはずだと思って蹴り出した足が突然砕け、ひき肉のように千切れて無くなってしまったために、男はバランスを崩して仰向けに倒れたのだ。
一拍おいて轟音が響いた──実際には同時に聞こえたはずだが、皆の感覚には遅れて聞こえたような気がした。
轟音の正体は銃声だった。
ゴロツキどもが部屋の入口を見ると、そこには彼らのボスの姿があった。
その場にいた全員が凍りついた。
彼が大量に返り血を浴びていたからだ。元の服の色さえわからないほど、全身を真っ赤に染めていた。
左手に拳銃をにぎりしめ、右手には日本刀が握られていた。
その刃はボロボロに欠け、血のりでてらてらと赤黒く光っていた……。
彼の様子が意味するものはたったひとつしかなかった。
彼はこの部屋に来るまでのあいだ、見張りとそのほかの連中を殺しながら歩いて来たのだ──銃声は聞こえなかった。
おそらく刀で。
「あ、あの……なあ、ヒロキ。俺たちはなにも──」
いちばん近くにいた男が口を開いたが、言えたのはそこまでだった。
ヒロキはそいつのほうを見向きもせずに日本刀を振った。
男の笑った顔がボトリと床に落ちた。
あとを追うように血しぶきを上げながら体が崩れた。
それからゆっくりと室内に入って扉を閉め、ロックし、ノブを銃弾でこなごなにした。
その目には殺意以上の輝きが宿っていた。
そして誰も彼を止められなかった。
たとえ武器を持っていなくとも“優等生”という表の顔をもつ、文武に長けた彼にかなう者などいなかっただろう。父親という後ろだて以外に、彼がボスとして君臨していられた理由がそこにあった。
 そのうえ今の彼は手のつけられない殺人鬼だった。
「おい、じょ……冗談だろっ!? なぁ、お前だって今までさんざん女たちをヤって来たじゃねーか……!」
そう言った男の口を真横に切った。
口元を押えてうずくまるそいつの右腕を切り落とし、左腕を吹き飛ばした。
男は両肩から放水し、ぎゃーぎゃー叫びながら足をバタつかせてのたうちまわった。
そのうるさい両足をスッパリと切断すると、手も足も無くし、出血のショックで痙攣しているそいつを踏みつけ、蹴飛ばし、何度も突き刺した。
男が絶命すると、その腹に刀をあて、切開した腹から臓物を掴みだし、そいつの裂けた口に押し込んだ。 腹の切開をさらに切り上げ、心臓や肋骨を引き抜いた。
あまりの惨状とむせ返るような悪臭に、誰もが吐気をもよおし、何人かは反射的に嘔吐した。
とてもマトモではなかった。
たとえ幼い少女を集団で強姦するような連中にとっても、その光景はあまりに異様であり、残虐だった。ただ恐怖と狂気におののき、うち震えるしかなかった。
だかどんな泣き落としも、命乞いも通用しなかった。
彼は逃げまわる男たちの腕を切り落とし、首をはね、銃弾を撃ち込んでいった。
泣いてひざまづく者をなぶりものにし、少しずつ切り刻んでいった。
息絶えた死体まで切り刻み、殴り、潰した──。


最後の犠牲者が肉片になった頃、部屋は真っ赤だった。
床はもちろん、四方の壁や天井にまで鮮血が飛び、肉片がこびりついていた。


兄は妹のそばまでやって来ると、力なく膝を落とした。
ボロボロになって投げ出された彼女をそっと抱き寄せた。
「……ああっ……ごめん……ごめんよ久美っ! ……ぼくがもっと──もっと早く気付いていれば……久美……!」
兄は妹を抱きしめて泣いた。
すると妹の口がわずかに動いた。
「うる……さい……。わたしのこと……ご主人さま……呼べって……何度言えば……わかるの」
少女はすでに何も感じなかったが、それでも兄を認識できたのは本能だったのか。
「ああ、久美……久美!!」
兄はぼろぼろ泣いた。
妹を抱きしめ、撫で、さすり、おいおいと泣いては抱擁した。
やがて彼の内部に妹の想いがなだれ込んだ。
少女の心に兄の意識が溶け込んだ。


《──なにやってたのよ……この馬鹿、グズ、役たたず!! あんたが早く来てくれないから、わたし……こんなに汚されちゃったじゃない……》


ああ……ごめんよ久美……ごめんよ……。


《わたしがどれだけ傷ついたかあんたにわかる?》


わかってるさ──ああ、わかってる……!


《なにがどうわかるのよ、人間のクズのくせして!》


きみがぼくのご主人様だから──。


きみがぼくを愛してくれていたように……ぼくもきみを愛しているから。


《ふん……。変態のクセになにが愛よ! このわたしがあんたなんか愛してるとでも、本気で思ってるの!?》


でなきゃぼくを家畜になんて出来ない。


《なにさ、家畜のくせして! だったら一生かけて償うことね! 死ぬまでわたしに奉仕しなさい……!》


うん……わかってる……わかってるよ。


《わたしの心が癒えるまでよ》


……ああ。


《わたしのなかから、あいつらの汚れがきれいさっぱりなくなるまで、あんたはわたしの性処理の道具よ……!》


……ぼくはきみの性処理の道具だ。


《何度でもわたしを突いて、掻き回して……犯すのよ! ──いつでも、わたしがしたいと言ったら……!》


……きみがしたいとき、ぼくはいつでもコレを立てる。


《あいつらがしたよりもっと強く、激しくよ! 何度でもわたしのなかに出して、出して、ぶちまけるのよ……! あいつらの汚れを忘れてしまえるくらい! めちゃめちゃによ……!》


……ぼくはきみが望むだけ何度でも掻き回す。
……きみが忘れるまで何度でも犯す。
……きみがぼくでいっぱいになるまで何度でも射精する。


《わかってるなら、さっさとわたしを犯しなさい──いますぐ、ここで……!
わたしの心が本当に消えてしまわないうちに……
この先もわたしの奴隷でいたいなら……
わたしを連れ戻して……現実に──
……ほら、早くなさいな。ウスノロ! 豚!》


──ああ、わかってる……わかってるよ……ぼくの大切なご主人様……。


キチガイの兄は壊れた妹にペニスを突きたてた。
体中を舐め、くちづけし、何度も腰を振っては内部で射精した。
突かれ、犯され、愛されるたびにキチガイの妹は現実に帰っていった。
男たちが突いた何倍も突かれ、連中が注いでいった何倍も注いでもらい、ゴロツキどもには決して無かった愛で犯されながら、妹は全身で兄を感じ、閉ざした心を少しずつ開いていった。


ふたりのキチガイは血の海のなかでまぐわり、肉片の散乱した部屋で交尾し、何度でも絶頂し、果て、体をゆすった。
狂気に満ちた行為はいつまでも続き、ふたりは繰り返し犯し、犯され続けた。



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